研究概要 |
金属錯体触媒を用いる不斉合成反応において高いエナンチオ選択性を実現するには、反応場に優れた不斉三次元空間を構築する必要がある。合理的な光学活性配位子の設計と合成が鍵を握るが、その構造は複雑かつ大型化する傾向がみられる。これに対し、本研究者は複数のキラル構造単位を金属との配位結合により結びつける新たな不斉反応場構築を提案した。適切な条件下、複数の光学活性配位子と金属とから目的とする不斉反応場をもつ「分子集合体型錯体触媒」が自発的に形成されると考えた。この発想の基に、本年度は光学活性ジホスフィン配位子と様々なジアミン配位子を構成単位とするルテニウム錯体触媒ライブラリーを構築し、それらを用いてケトン類の不斉水素化を検討した。原料にアミノ酸を用いることで、短段階で多彩な構造をもつキラルジアミン配位子を合成することができた。なかでも、2-ジメチルアミノ-1-フェニルエチルアミン(DMAPEN)を配位子に用いることで、アリールグリオキサールジアルキルアセタール類の高エナンチオ選択的水素化に世界で初めて成功した。光学収率は最高98%に達した。また、α位ヘテロ原子置換ケトン類の動的速度論分割を経る不斉水素化では、生成可能な四種類の立体異性体のうち、一種類だけをほぼ純粋に合成することに成功した。この成果は化学系企業との共同研究に発展した。芳香属系イミン類の塩基性条件において、ルテニウム錯体が高い反応性を示すことも見出した。さらに、極めて単純な塩であるLiClが、アルデヒドおよびケトンと(CH_3)_3SiCNとの反応の優れた触媒になることを発見した。無溶媒条件下、基質/触媒比10,000でも反応が完結する環境調和型反応を達成した。この課題を含む一連の研究業績が認められ、本件研究者は第3回(平成18年度)日本学術振興会賞を受賞した。
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