有機フッ素化合物は、フッ素原子が醸し出す特異な性質により、医薬・農薬、並びに液晶等の機能性材料として注目を浴びている。本研究に関連するジフルオロメチレン化合物(-CF_2-基を有する化合物)には顕著な生理活性を示すものが報告されているので、その効率的な合成法の開発が望まれている。本研究は、ジフルオロメチレン化合物合成に対し有効な手法として、最もシンプルな構成単位としてジフルオロカルベン(:CF_2)に着目し、これを多岐にわたるフッ素化合物合成に展開するものである。 平成18年度は、ジフルオロカルベンから誘導できる新しい合成ブロック:ホウ素化ジフルオロシクロプロパンを新たに開発した。様々な置換基を有するビニルホウ素化合物に対し、クロロジフルオロ酢酸ナトリウムの熱分解により生じたジフルオロカルベンを反応させると、環化付加反応が進行し、対応するホウ素化ジフルオロシクロプロパンが得られた。本反応は、出発原料であるアルケニルホウ素化合物の幾何異性を反映し、立体特異的に進行した。続いてホウ素化ジフルオロシクロプロパンの合成化学的応用を試みた。その結果、リチウムカルベノイド化合物との反応がスムーズに進行し、ホウ素化ジフルオロシクロプロパンの炭素-ホウ素結合間にメチレン基が挿入した化合物が高収率で得られた。この手法を展開し、ホウ素化ジフルオロシクロプロパンのホウ素置換基を、ヒドロキシルメチル基、ホルミル基等の様々な置換基に変換することができた。
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