研究概要 |
環・多環高分子は末端を持たない高分子ループを形成するため,線状あるいは分岐状高分子とは異なるカテゴリに属し,特に高分子鎖どうしの絡み合い挙動にはユニークな性質が予想される。本研究課題では、環状高分子の顕微鏡による形態観察や粘弾性測定・シミュレーションなどによるダイナミクス解析を念頭におき,汎用高分子のひとつであるポリスチレンを中心に,両末端反応性高分子前駆体による効率的高分子環化反応の開発を進めた。環状高分子の効率的合成においては,両末端に二重結合を導入した線状ポリスチレンを前駆体とし,希釈条件でGrubbs触媒によるオレフィンメタセシスを行うことで,分子量3,000から10,000程度の環状高分子を得ることができた。合成した環状高分子の化学構造,純度の確認には,質量分析および臨界条件液体クロマトグラフィーがそれぞれ有効であり,オレフィンメタセシスの進行に伴う環状高分子の生成およびその純度が確認された。さらに,4官能性重合開始剤の開発を通して末端に二重結合を有する4本鎖星型高分子を合成し環化前駆体とすることで,代表的な双環高分子である8の字型高分子の合成へも展開した。一方環状高分子自体の顕微鏡による形態観察ならびに粘弾性測定によるダイナミクス解析までは至らなかったものの,それらに対して応用できる高分子鎖の顕微鏡観察技術や単一分子の絡み合い挙動に関するシミュレーション技術の開発がなされた。
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