研究概要 |
単環および多環高分子は末端をもたない閉じた高分子ループを有するため,線状あるいは分岐高分子とは高分子鎖同士の絡み合い挙動などにおいて大きな違いが生じると容易に想像され,その基本的高分子特性を明らかにすることは,新しい高分子材料開発に重要な戦略的意義を持つものと考えられる。そこで本研究課題においては,様々なモデル系もあり汎用高分子のひとつであるポリスチレンの環化反応を中心に研究を進めた。さらに環状高分子だけでなく,2つの環が1点で連結した8の字型高分子の合成も同時に検討した。リビングアニオン重合による末端二重結合型線状および4本鎖星型ポリスチレンの合成では,予想以上に末端基の導入率の向上が見られず,最終的に90%以上の導入率は達成できたものの,厳密な反応装置,条件が必要であった。最終的な物性評価まで考慮すると,更なる末端導入率が望ましい結果であった。Grubbs触媒によるオレフィンメタセシスによる高分子環化反応では80%ほどの効率で環状ポリスチレンが形成されることがわかった。得られた環状ポリスチレンは,各種分光分析やクロマトグラフィ分析により同定された。また4本鎖星型高分子からは8の字型高分子の形成が示唆された。これらの結果から,オレフィンメタセシスによる鎖状高分子の環化反応が環状ポリスチレンの合成に適用できることが示された。特に,炭素-炭素結合での連結であるため,連結点の化学構造が主鎖セグメントに対して大きな特異性をもたないことは物性評価ならびに材料特性を考える上で利点であると期待される。また,4本鎖星型高分子からの8の字型高分子の生成は,合成例の少ない多環高分子の合成に対し有用な知見を与えたものと考えられる。しかしながら環化効率自体は,他法に比べて特別高いものではなく,実用スケールでの環状高分子提供に向けて効率のよい環状高分子合成法の開発は引き続き検討される必要がある。
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