研究概要 |
本研究では、金属触媒による新しい重付加反応の開発とこれによる配列制御高分子の構築を目的としている。具体的には、遷移金属錯体によるリビングラジカル付加重合の概念を重付加反応へと展開することで、金属触媒による新しい重付加反応を開発・確立し、さらにモノマー設計を行うことにより、これまでにない交互共重合体、多元交互共重合体を合成し、新しい配列制御高分子の構築を行う。本年度は主に以下の成果を得た。 1.遷移金属触媒による炭素-ハロゲン結合の活性化に基づくラジカル重付加反応の確立 エステルのカルボニル基に隣接した炭素一塩素結合と非共役二重結合を分子内に有するエステルを合成し、ルテニウム、鉄、銅などの遷移金属錯体を組み合わせて、ラジカル重付加反応を検討した。とくに、2-クロロプロピオン酸の1-ブテニルエステルをモノマーとして用い、鉄や銅錯体と組み合わせると、重付加反応が効率よく進行し、比較的高分子量(M_w=3,000-10,000)のポリマーが生成した。NMRおよびMALDI-TOF-MSによって解析した結果、炭素一塩素結合の活性化に基づく重付加反応が進行していることが明らかとなった。すなわち、モノマー構造に基づくカルボニル基に隣接する反応性の高い炭素一ハロゲン結合が金属触媒により活性化されラジカルが生成し、他の分子中の非共役炭素一炭素二重結合に付加し、次いで反応性の低い炭素-ハロゲン結合が生成する形で重付加反応が進行することがわかり、新しいラジカル重付加反応を見出した。 2.モノマー設計に基づく交互共重合体の合成 予想されるポリマーの構造が、メタクリル酸メチルと塩化ビニルの交互共重合体となるモノマーを合成し、種々の遷移金属触媒により重合を検討した。同様な重付加反応が進行し、分子量はまだ低いものの(M_w〜1,000)、ビニルモノマーの配列制御高分子と等価な構造のポリマーが得られることがわかった。
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