Au(788)面上に平行に並ぶステップを微量蒸着した3d遷移金属で修飾することで一次元構造を形成し、その構造や電子状態、磁性などを調べ、一次元系の物理を明らかにすることを目指している。平成17年度は特に磁性に的を絞り、Feの一次元構造について、高輝度放射光からの円偏光を利用した磁気円二色性(XMCD)測定を行った。 Feを蒸着して一次元構造を形成した場合、明確なXMCDシグナルが観測され、Feの3d電子が磁気モーメントを有する事が示された。更に、磁気光学総和則を用いて、磁気モーメントの大きさを調べた結果、蒸着量の減少(一次元構造の幅が減少)と伴に、磁気モーメントが増大する事を見出した。また、角度依存測定からは、Feの磁気モーメントが磁気異方性を有し、基板に垂直方向の磁化容易化軸を持つことがわかった。ステップ端に単原子細線が形成される0.07MLにおいて、磁場依存性を測定した結果、18Kでヒステリシス特性を示すものの、30Kにおいては磁場変化に対してXMCD強度がLangevin関数的に変化した。これは、Fe単原子鎖が短距離強磁性秩序を有するスピンブロックに分かれ、全体としては超常磁性的に振舞う事を示している。また、低温で観察されるヒステリシスは、磁気異方性により遅くなったスピン緩和の非平衡状態を観測しているものと考えられる。 これまでに報告されている、単原子細線のような厳密な一次元系の磁性に関する観察例は極めて少なく、貴重なデータが得られたと考えている。蒸着する金属の3d軌道の電子配置を変えるだけでまったく異なる結果が得られており、今後更に、他の3d遷移金属など蒸着金属のバリエーションを増やすことで研究の展開を図っていく予定である。
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