Au(788)微傾斜面上に平行に並ぶステップを、微量蒸着した3d遷移金属で修飾することで一次元構造を形成し、その構造や電子状態、磁性について、走査型トンネル顕微鏡(STM)、角度分解型光電子分光法(ARPES)、X線磁気円二色性測定(XMCD)を用いて調べている。これまでに形成したFe、Ni、Mnの一次元構造の観察結果について、詳細なデータ解析を行い、3d電子と基板のs電子との相互作用による磁気異方性と、3d原子間に働く強磁性結合を仮定した簡単なモデルを当てはめて考察した。これにより、3d軌道の電子配置が基板と相互作用する軌道を決定し、3d軌道の基板に対する方位が固定され、その結果として磁気異方性の方向が決まること、3d原子の形成する格子の形状や格子定数が、3d原子間の磁気的相互作用の性質や強さを決めることなどが明らかになった。これらの考察に基づいて、これまでに観察された全ての一次元系の磁気的な振る舞いについて、統一的に理解出来るようになった。 今後の展開として、バルクでは非磁性な金属や、C、B、Nなどの軽元素を用いて一次元構造を形成し、バンドの平坦化により強磁性を発現させることや、超伝導など磁性以外の現象を発現させることなどを視野に入れて、実験を進めている。
|