細胞は低酸素条件下では、hypoxia inducible factor (HIF)タンパクが安定化され、それにより様々な遺伝子が発現する。その中でも代表的なものが新生血管増殖因子(VEGF)である。我々は、18〜19年度の本研究において様々なVEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を開発してきた。 その研究過程で、シグナル下流のVEGFRチロシンキナーゼだけでなくその上流のHIF-1αを阻害する化合物を見出した。そこで、本年度は以下の点について明らかにしてきた。 (1)VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤群のスクリーニングによるHIF-1α阻害剤の探索 既に合成した化合物ライブラリーおよそ100個を細胞レベルでのHIF-1αの発現タンパク量をwestern blotting法で調べ、阻害活性の高い化合物を探索した結果、およそ7μMでHIF-1αを阻害する化合物を見出した。この化合物は、第1相臨床試験中であるYC-1と同等以上の活性があることがわかった。 (2)様々な細胞におけるnormoxiaとhypoxia状態でのシグナル挙動と阻害剤によるHIF-1αの阻害活性を調べ、阻害効果の高いがん細胞系列を見出した。 (4)HIF-1αの安定化と分解に重要な役割を持つプロテアソームに対する阻害剤の分子設計を行った。プロテアソーム阻害活性が報告されている天然物Belactosin骨格に着目し、タンパクへの作用部位にホウ酸基を導入することで、可逆的な阻害剤の開発を行った。合成したホウ酸ペプチド化合物は、0.2μMの濃度においてプロテアソームのキモトリプシン様酵素活性を50%阻害することが分かった。
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