報告者は以前オルトアルキニル(オキソ)ベンゼン化合物に対し、三価の臭化金や塩化金触媒存在下でアセチレン化合物を反応させると、[4+2]型の環化付加反応が進行し、ナフチルケトン化合物が一挙に構築できることを見出している。本申請研究では、ベンザインもアセチレン化合物とみなすことが可能であることから、これをアセチレン化合物の代わりとして用いることにより、一挙にアントラセン骨格を構築しようと考えた。しかしベンザインは極めて不安定な活性種であるため、その前駆体から発生次第すぐに反応に供しなければならない。その一方で、オルトアルキニル(オキソ)ベンゼン化合物と金触媒とからピリリウム型中間体が生成し、これがベンザインと反応することになるが、金は触媒量しか加えることができないため、極めて微量にしか中間体が発生しないことになり、ベンザインと収率よく反応させることは困難が予想された。そのため、精密な温度コントロールを行いベンザインの発生速度を制御し、また金触媒のルイス酸性を調整することによりピリリウム中間体の発生速度を制御して、それぞれの活性種の発生のタイミングを変化させて検討を行った。その結果、ベンザイン前駆体として2-カルボキシベンゼンジアゾニウム塩を用い、触媒として一価の塩化金を用いて、40度で反応を行うことにより、アントラセンを高収率で構築することに成功した。反応は様々な置換基を有するオルトアルキニル(オキソ)ベンゼン化合物でも進行し、これにより報告者は9位にケトン官能基を有する種々のアントラセン化合物の効率的な構築法の開発に成功した。
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