報告者はこれまでの研究によって、塩化銅(II)存在下でオルトアルキニルベンズアルデヒド化合物とアセチレン化合物を反応させると、塩化銅(II)がルイス酸として働くと共にクロライドソースとして働き、4位にクロロ基が導入されたナフタレン化合物が一挙に構築できることを見い出している。そこでこの反応機構について詳細に検討を行った結果、基質と塩化銅(II-)によってベンゾピリリウム型中間体が生成し、これに対してアセチレン化合物が[4+2]型の環化付加反応を起こして進行することを明らかにした。続いて、本反応を活用したポリアセン合成について検討した。その結果、3-アルキニルー2-ナフトアルデヒド化合物とヨードエンイン化合物とから、塩化銅(II)を用いることによって一挙に1-クロロー3-ヨードアントラセン誘導体を中程度の収率で得ることに成功した。続いてヨード基を利用した園頭カップリングによって骨格上にアルキニル基を導入し、続いて金触媒と処理したところ、電子環化反応によって5-クロロテトラセン誘導体を簡便にかつ収率よく得ることに成功した。本反応は多置換テトラセン化合物の精密合成法として有用である。今後は本手法を鍵とするペンタセン合成について検討を進めていく所存である。また、本研究の過程で、基質としてエステル誘導体を用いて反応を行ったところ、イソクマリンが生成することを見い出し、この結果から、このエステル化合物が優れた求電子剤として働くことも見い出すことができた。本反応は本申請研究の目的とは異なるものの、新規求核置換反応として有機合成上大変有用であり、本申請研究によって様々な有意義な結果を導き出すことができた。
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