フォトクロミック分子は、光異性化反応に伴って様々な分子物性が変化する材料として知られている。本研究では、特に本申請者が発見したジアリールエテン系分子の特定種が示す、光異性化状態に依存した金属Mg蒸気に対する堆積選択機能の原因と、他の有機材料・金属材料に対する一般性に関する研究を行った。ジアリールエテン分子が有するMg蒸着選択機能は、有機エレクトロニクス分野において微細な金属電極や配線のマスクレス形成への応用ができ、当該分野で重要な技術となる可能性がある。 1.マグネシウムが蒸着しない消色状態のジアリールエテンアモルファス分子薄膜は、そのガラス転移点が室温付近にあることが判明した。光異性化反応に伴って着色状態になると、ガラス転移点は100℃近傍まで上昇する。ガラス転移点付近における膜中の分子は、より安定な相状態である結晶に転移するために活発な分子運動状態にある、その結果、Mg原子との相互作用の弱さも相まって、Mg蒸気中の原子を表面で跳ね返していることが分かった。この原理は、他のTgの異なる様々な有機アモルファス膜の温度を変えてMg蒸着を行ったところ、Mgの堆積性はやはりそれぞれのTgと相関関係が観察されたことで確認できた。さらにMgを堆積させない異性化状態のジアリールエテン分子でも、固体中の分子の運動がより少ないと考えられる結晶状態ではMgが堆積することから、上記した考え方(分子運動の活性度)がMg堆積性を支配していることが示された。これにより、他の有機材料系への応用展開の可能性が示された。 2.他の金属種への可能性を探求したところ、特に分子間相互作用が弱い一部のジアリールエテンにおいて比較的原子量の小さい金属種(Ca、Al、Kiなど)において、非堆積性を示すものがあることが判明した。この現象は分子の異性化状態に依存したものではないが、今後この機能の一般性を示す上で重要な現象の発見であると考えられる。
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