フォトクロミズムを示す特定種のアモルファスジアリールエテン薄膜は、その異性化状態に依存して金属マグネシウムに対する蒸着選択性を示す。本研究ではその応用として、有機エレクトロニクスデバイスの電極パターン形成について検討した。有機電子デバイスでは、通常であれば陰極と電子注入・輸送層が接触する構造になっている。有機デバイスのMg陰極パターンにジアリールエテンの蒸着選択性を利用するためには、電子輸送層と陰極の間に極めて薄いジアリールエテン層を形成する必要があるが、その際に陰極からの電子注入特性が大幅に抑圧されるという問題があることが判明した。しかし同時にこの問題点は、さらにその上に1nm前後のきわめて薄いAlq3電子輸送層を形成することにより、蒸着選択性を保持したまま電子注入特性が改善できることを見出した。そこで、この様な薄い中間層を介しての蒸着選択性発現の原因について探求した。着色状態のジアリールエテン上にAlq3層を形成した後に異性化パターン形成を行う際にレーザー光照射をするが、その時に発生する熱の影響によってジアリールエテン層上の薄いAlq3層に変形・凝集が起こり、その結果下地の消色状態のジアリールエテンが露出するということがAFM観察により確認された。一方着色体上のAlq3膜はレーザー照射を行わないので凝集現象を起こさなかった。これはジアリールエテン上のMgマイグレーション・反射という蒸着選択性の「弱い」現れ方を示していると解釈することもできる。 さらにジアリールエテンをポリマーにドープしても蒸着選択性が発現することを新たに見出したが、このことは低分子を用いたエレクトロニクスデバイスへの応用に留まらず、ポリマーエレクトロニクスデバイスにも本原理による電極パターン形成が応用できる可能性を示していると言える。
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