研究概要 |
長いナノ秒パルスを用いた水中でのレーザーアブレーション発光分光によるその場元素分析について以下の成果を得た。 1.溶存元素種の発光 溶液由来の元素のスペクトルに対する寄与を検討した。10mMの硫酸銅水溶液中では銅ターゲットからの発光への寄与が圧倒的に大きいこと,1mMの硫酸ナトリウム水溶液中でもNa原子のD線は十分強い発光を示すことを見出し,ターゲットの分析と溶存元素の分析を両立させる可能性が示唆された。また,発光強度のパルス照射からの遅延時間依存性が発光線によって大きく異なることを見出し,定量分析において遅延時間を適切に設定する必要があることがわかった。 2.合金の組成比分析の可能性 水中の銅-亜鉛合金(銅/亜鉛=1.86)をターゲットとし,銅および亜鉛原子の発光線を含むスペクトルを理論スペクトルと比較することにより原子比を求めたところ0.2〜0.4となり,ターゲットの組成比と大きく異なった。照射後の水に含まれる銅と亜鉛の原子比は1.4〜1.6であり,ターゲットの元素比に近かった。元素種によりプルームに取込まれる速度が異なることが考えられた。 3.電解析出皮膜分析の可能性 電解液中その場での電解析出皮膜の元素分析の可能性を検討した。銅-亜鉛の同時析出が進行する系で,電極電位を負に掃引すると銅および亜鉛が析出する電位でそれぞれの発光線が現れることを確認した。スペクトルから求めた銅/亜鉛比はパルスごとのばらつきが大きいが,異なる上位準位を持つ複数のスペクトル線を考慮すると得られる値が比較的安定した。 4.発光メカニズムについて 長いナノ秒パルスが広がりの少ないスペクトル線を与える原因を解明するため,パルス照射中の発光画像と気泡の撮影を行った。照射中に気泡が発生し,また気泡中で強い発光が見られたことから,広がりの少ないスペクトル線は気泡中での発光と関連していることが示唆された。
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