本研究では、固体系光電変換素子の創製に向けて、(1)酸化物半導体、(2)イオン伝導材料、(3)導電性ポリマー材料、(4)炭素材料、からなる接合構造と、(1)〜(4)のいずれかの界面に配置した光吸収体により、高効率の光励起電子移動と光エネルギー変換系を構築することを目的とする。19年度では、光吸収体としてこれまでの有機色素に代えて、無機材料として、光吸収係数の高い化合物半導体の量子ドットやナノ結晶粒子などを用いることを試みた。その結果、無機材料として、臭化鉛系のペロブスカイト化合物が酸化チタン半導体の増感に有効であることがわかり、このナノ結晶を自己組織化によって(1)と(2)の界面に形成することによって可視光を3%近いエネルギー変換効率での電極変換する予備実験に成功した。そこで、20年度では、この方法に基づいた効率の改善を検討した。ペロブスカイト化合物を臭化物からヨウ化物に変えることで、感光波長領域を600nmから800nmまで拡張できることを検証した。ペロブスカイト臭化物を被覆する条件を変えることによって光電変換特性の最適化を行った結果、変換効率をさらに3.8%まで高めることに成功した。具体的に次の方法によって改善を行った。 1.酸化チタン半導体発電層の改善 酸化チタン多孔膜の膜厚を薄くし(8μm)、ペロブスカイトのスピンコート溶液の溶媒をDMKからブチロラクトンに置き換えることによって、自己組織化ペロブスカイト膜が均一に多孔膜内部まで形成されるように改善した。 2.電極基板表面へのバッファー層の設置 交流インピーダンスアナライザー等を用いた解析から、透明導電基板(フッ素ドープSnO2)と酸化チタンの界面に、電荷輸送の不効率があることが示唆され、基板表面に化学蒸着法によって緻密な酸化チタン薄膜をバッファー層として被覆して逆電子輸送を防止した。 以上の結果から3.8%の最高エネルギー効率はヨウ化物系で得られたものの、光電流発生量子効率は45%と低く、まだ効率には改善の余地がある。一方、臭化物系はエネルギー効率は3.1%であるが、量子効率は60%以上であり光起電力として0.96Vという高い値が得られたことが注目すべき結果である。
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