研究概要 |
コレステロール誘導体/鎖状オリゴマーから成る脂質錯体、ポリグルカンのアルキルエステル高置換体、及び関連する糖質高分子を対象に、相転移挙動、液晶ガラスの形成と構造緩和特性等について調査し、以下の成果を得た。 1.コレステロール誘導体/鎖状オリゴマーから成る脂質錯体に関して (1)フタル酸モノコレステリルCHPと直鎖アルキルアミンCn-amine(nは炭素数で4〜18の偶数)との1:1錯塩型コンプレックスの形成確認を行い相転移スキームを完成させた。CHP試料としてフタル酸部が通常のオルト型(o-CHP)以外にメタ型(m-CHP)とパラ型(p-CHP)を合成したが、 m-およびp-CHPの単独体ならびにCn-amineとの錯体は液晶や液晶ガラス相を形成しないことが判明した。o-CHP/Cn-amine錯体は、n=10〜18ではスメクチックタイプの、n=8ではコレステリックタイプの液晶および液晶ガラスを形成し、n=6では液晶相を発現することなく無定形ガラスを形成した。 (2)o-CHP/Cn-amine錯体のガラスについてDSC熱分析によりエンタルピー緩和データを集積した。鎖長の異なる二つのアルキルアミンの等モル混合物((Cn,Cm)-amine)を対成分とした系、およびコレステロール誘導体をコハク酸モノコレステリルCHSとした系について比較実験を進め、分子量分布の発生および分子凝集様式の違いがガラスの緩和挙動に大きく影響を及ぼすことがわかった。 (3)鎖中にアゾベンゼンを導入した鎖状アミンを合成し、CHPおよびCHSとの錯形成を確認した。特に、CHS系錯体は低温域で安定な液晶ガラス状態をとることが判明し、機能化用媒体となりうる可能性が示された。 2.アルキルエステル側鎖を高置換度で有するポリグルカン誘導体に関して (1)n-アルカン酸/p-トルエンスルホン酸クロリド混合酸無水物活性化法を用いたO-アシル化反応により、セルロース・キチンの3置換・2置換エステル誘導体(Cn-ACellとCn-ACh;n=4〜20)を合成した。 (2)DSC分析により、Cn-ACellの熱転移挙動は側鎖の炭素数に依存して変化し、n=4,6では無定形ガラス-等方相の、n=8〜18では液晶ガラス-液晶-等方相の転移挙動を示すことが判った。特にnが12以上の誘導体では、アシル化キチンCn-AChのn=16〜20と同様に、低温域のガラス転移で一次転移様の吸熱ピークを与える。ガラス緩和の回復に加えて液晶秩序の鋭敏変化が伴うことが示唆された。 (3)関連の液晶性セルロース並びにキチン誘導体の相挙動解析と液晶相固定化フィルムの作製等を行った。
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