今年度はまずメモリー候補材料の調査・検討を文献および学会を通じて行い、いくつかの必要条件を確認した。まず電荷注入の観点からは、ある程度のホール輸送性を有しバンドギャップの比較的大きなものが有望である。(ポリビニルカルバゾール系など)また電荷蓄積の面ではバンドギャップの大きな絶縁性材料であることが必要である。(ポリイミド系など)但し、この場合は電荷注入の為の機構、例えば電極からの距離が重要な要素となる。 次に候補材料のスクリーニングとしての基本的な物性を測定する為に、高周波領域を除く誘電率測定システムの立ち上げを行った。 構造制御型微粒子メモリーに関しては、基板上に微粒子膜の積層構造、単層から5層までの積層において層構造を乱すことなく形成されていることをX線反射率により確認した。微粒子層をサンドイッチ状に挟み込む誘電体に関しては、有機溶媒が微粒子層を溶解する為に真空蒸着または非有機溶媒が望ましいことが明らかになった。シルセスキオキサンやフッ素系溶媒分散材料などに候補を絞った。 フラーレンメモリーに関しては、フラーレン誘導体の電気化学的な測定により段階的な電荷変化の確認を試みたが不安定である為現時点でまだ再現性のあるデータは得られていない。 一方で、材料の選定の過程で見出した新たなホール輸送性材料、側鎖にカルバゾール基を有するセルロース骨格の新規合成高分子を用いて透明電極およびアルミニウム電極で挟み込んだ単層型デバイスを作製したところ、明確かつ安定なメモリー特性を確認することができた。これは分子構造を制御した新たなメモリー材料として期待されるばかりでなく、その材料設計の重要な指針を得る事ができた。
|