本研究では表面磁気抵抗測定装置を世界に先駆けて開発し、超高真空下で作製した金属量子薄膜などについて、in situ磁気伝導測定を行ってその輸送特性を調べる。昨年度までに本装置建設及び磁場・冷却・真空評価、そして2つのSTM探針による電気抵抗測定テストが完了している。今年度は、本来の目的である金属量子薄膜の磁場抵抗測定を行い、その物性を調べた。超高真空下ではSi基板上に厚さ1〜10nmの金属量子薄膜を原子レベルの平坦性で作製することができるので、そのinsitu磁気抵抗測定をプローブ間隔が数10μmのマイクロ4端子法で行った。Bi超薄膜の場合この膜厚領域では磁気抵抗の厚さ依存性はほとんどなく、磁気伝導において表面層の寄与が大きいことが分かった。実際我々の光電子分光法の結果から薄膜は半金属的であるのに対して表面は金属的であることを確認した。すなわち金属超薄膜の伝導は高い表面/バルク比から表面に関連した新しい物性の発現が期待された。そこで厚さ数nmのAg超薄膜についてその表面にBiを蒸着した2次元相を作製し、その磁気抵抗の変化を調べた。この表面秩序相は大きなスピン-軌道相互作用と表面2次元性からRashba効果が発現し、表面状態はスピン分裂する。磁気抵抗測定の結果、Bi/Ag(111)超薄膜では強い反局在効果が確認された。この量子効果の詳細を調べるために高分解能スピン分解光電子分光を行ったところ、スピン分裂した表面状態が超薄膜内の電子状態(量子井戸状態)と混成して超薄膜全体もスピン分裂する新しいスピン物性を発見した。以上のように本研究は予定通り独立駆動マルチプローブ型の表面磁気抵抗測定装置を完成させ、さらに約1nm厚の金属超薄膜の新しい量子物性を明らかにした。超高真空下の表面及び超薄膜の磁気伝導はこれまで未開拓だったので、今後も本技術により新しい成果が期待される。
|