本研究では、ナノプローブによる精密・正確な電位計測系を構築し、それを用いることによって量子ナノ構造中の電子状態に関する知見を獲得することを主たる目的としている。特に、ナノプローブの一種であるケルビン・プローブ・フォース顕微鏡(KFM)において、その動作モードが本質的に含有する問題点を再点検し、それらを解決することによって、精度・空間分解能だけでなく信頼性も高い電位計測を実現することを目指している。 今年度においては、静電引力の長距離性による分解能の低下を防ぐための間欠バイアス法や静電引力に対する測定感度を向上させるためのサンプリング手法、電位決定の応答速度を向上するための新アルゴリズムなどを提案するとともに、実際のKFMシステムに導入し、その効果の検証を行った。間欠バイアス法とサンプリング手法とを併用したKFMによって自己形成InAs量子ドット周囲の電位分布を観測した結果、10nm以下の領域で100mV程度の大きな電位変化が明瞭に観測され、本手法によって電位測定における空間分解能が向上していることが実証された。なお、電位決定の新アルゴリズムについては、同手法によって電位測定が可能であることを確認することはできたが、従来手法に対する十分な優位性を示すには至っていない。 一方、自己変位検出型のカンチレバーを用いたKFMを光照射下で動作させることにより、多結晶シリコン太陽電池における光起電力分布を観測することにも取り組んだ。その結果、多結晶材料の結晶粒ごとに光起電力がばらついていることや結晶粒界付近で光起電力が低下していることを示すデータを得ることができた。また、これらの光起電力分布は、もともと試料表面が持っている電位分布から説明できることがわかった。さらに、照射光波長に対する光起電力の依存性の測定から、小数キャリアの拡散長を評価できることも示された。 また、KFM測定を低温で行うことを目指し、KFMユニットの真空排気系の強化・改善などを行い、次年度以降の実験実施の準備を進めた。
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