本研究では、ナノプローブによる精密・正確な電位計測系を構築し、それを用いることによって量子ナノ構造中の電子状態に関する知見を獲得することを主たる目的とした。特に、ナノプローブの一種であるケルビン・プローブ・フォース顕微鏡(KFM)において、その動作モードが本質的に含有する問題点を再点検し、それらを解決することによって、精度・空間分解能だけでなく信頼性も高い電位計測を実現することを目指した。 今年度は、従来から開発を続けていた間欠バイアス印加法およびサンプリング検出法を併用したKFMの有用性を、GaAs上自己形成InAs量子ドット周囲での電位分布観測を通じて検証した。両手法の条件を最適化することにより、空間分解能と電位決定精度の大きな改善が見込めることを示した。一方、KFMでの電位フィードバックを停止し、静電引力信号の直流バイアス依存性を測定することにより、局在準位などへの電荷蓄積効果を観測できる可能性があることから、同手法を用いて、自己形成InAs量子ドット上での静電引力測定を行った結果、本来は線形な関係にある静電引力と直流バイアスの関係に明瞭な非線形性が見られることや、その非線形性に量子ドットのサイズ依存性があることを明らかにした。この非線形性については、量子ドット中の量子準位への電荷蓄積効果によるものと考えている。さらに、自己変位検出型のカンチレバーを用いたKFMによる光起電力測定手法を拡張し、多結晶シリコン材料の結晶粒界付近にて、少数キャリアの拡散長のマッピング計測を実現した。その結果、結晶粒界近傍では明らかに拡散長が減少していることが示された。これは、結晶粒界が少数キャリアの再結合サイトとして働いていることを強く示唆している。また、結晶粒ごとに拡散長の値も異なることも見出した。このような太陽電池特性の局所的情報を利用することで、微小な結晶で構成される太陽電池材料の性能向上に貢献できるものと考えている。
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