本年度は、有機薄膜からのトンネル電流誘起発光を効率的に検出するための装置の整備を行った。フォトン検出器を追加し、来年度以降のフォトン放出の角度依存性を測定するためのシステムを立ち上げた。また、現在使用している制御装置を、より高精度のRHK社の制御装置に変更するための配線の変更、制御ソフトの新規導入を行い、集光効率の向上とノイズレベルの低減に成功した。また、有機薄膜からの発光特性評価においては、金属フタロシアニン分子を用いて、実験を行った。単一分子からの発光を検出することは困難であることが予想され、今年度は蒸着法により約200nmの薄膜を作製し、トンネル電流誘起発光が有効に行われるかをテストした。その結果、基板がグラファイトでは、フタロシアニン分子からの発光が検出されず、金表面を用いた場合は、数10カウント/秒の分子からの発光を観察した。この結果は、探針直下に生成されるプラズモンにより、分子の発光が増強されることを意味しており、過去に光により誘起されたプラズモンが存在する場で分子発光が増強されるという報告によく一致している。一方で、検出された分子発光においては、その光エネルギーよりも小さいトンネル電圧においても放出が確認され、見かけ上エネルギー保存則を満たさない発光を捕らえるという不思議な現象を確認した。この解釈として、3重項-3重項消滅による複数分子間でのエネルギー異動機構を導入し、Cu、Zn、Mg、H_2各フタロシアニンすべての系において、この発光機構が成立することを確認した。中でも、Cuフタロシアンでは、過去に報告されていない蛍光を実験的に始めて観測し、プラズモン増強の効果を実証した。
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