研究概要 |
昨年度に引き続き,高誘電率絶縁物であるAl化合物のAl1s光電子スペクトルおよびAl2p光電子スペクトルを,SPring-8の硬X線光電子分光施設を用いて高分解能で測定した.今年度はAl基板上にスパッタ堆積したAl_2O_3,AlFを測定対象とした.スペクトル解析によってケミカルシフトΔE1sとΔE2pを求め,その差から相対的ケミカルシフトΔE1s-ΔE2pを決定した.そして,昨年度測定したAINも含めてA1化合物(Al,AlN,Al_2O_3,AlF)においてもsi化合物(Si,SiC,Si_3N_4,SiO_2)と同様に,ΔE1s-ΔE2pが分極率αと良い一次の相関を持つことを明らかにした.また,相関直線の傾きがSi化合物とAl化合物で大きく異なることを見出した。続いて,実験で明らかにされた相関について理論検討を始めた.光電子分光のケミカルシフトがαと良い相関を持つことから,光電子放出過程は誘電応答と良いアナロジーを持っていると考えた.そこで光電子放出過程の励起状態で内殻正孔が作る電界によって誘起されるダイポールμに着目して次のように検討した.当研究経費で導入した高性能コンピューターで,第一原理計算プログラムを用いて光電子放出過程の基底状態と励起状態の電子状態を計算し,マリケンチャージ解析法で励起状態時に増大する価電子電荷量Δnを求めた.そしてΔnと原子間距離rから,μをμ=Δnxrで求めることができると仮定した.Si化合物(Si,SiC,Si_3N_4,SiO_2)およびAl化合物(Al,AIN,Al_2O_3,AlF,AlSb,AlAS,AlP)についてμを計算した結果,両化合物に対して求めたμと文献値αはきわめて良い一次の相関を持つことが明らかになった.
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