本研究の目的は、偏光が放射状に分布した径偏光レーザービームを用いて、金属や半導体などの微粒子の光トラッピングを実現することである。そのため本年度は、複屈折性を持った光学結晶を用いて共振器内部で偏光成分を空間的に分離し、径偏光あるいは方位偏光のみが安定に発振するようにした、出力が1W以上のNd:YAGレーザーを用いて光トラッピングの実験を進めた。レーザー光を落射型の光学顕微鏡内に導光し、ダイクロイックミラーによって下方に反射した。これをNAが1.2である水浸対物レンズによって集光した。捕捉しようとするガラス球またはポリスチレンラテックス球などの微粒子を浮遊させたガラスセルに対物レンズを浸し、微粒子の様子を顕微鏡上に取り付けた、CCDカメラによって観察した。ガラスセルを保持している顕微鏡ステージには精密DCモーターを取り付け、一定の速度で移動できるようにした。まず、光軸と同じ方向の力を測定するために、ガラス球をトラップし、次にレーザー出力を次第に下げていき、粒子がトラップから外れる時の出力を記録した。大きさの異なるいくつかのガラス球に対して、同様の実験を行った。光トラップ力は、重力と浮力の釣り合いから求めることができる。直線偏光のレーザービームに対するトラップ力と比較すると、径偏光ビームの方が大きな力が得られることが分かった。これは、幾何光学に基づいて行なった、トラップ力の計算結果ともよく一致しており、径偏光ビームが光トラッピングに対して、従来よく利用されている直線偏光ビームよりも、有効であることを明らかにすることができた。また、計算においては、粒子の屈折率に対する光トラップの効率も求めたが、それによると、屈折率の大きな粒子の方がより大きな効率を示すことがわかり、半導体のトラップにも有効であることを示すことができた。
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