研究課題
近年注目のフォトニック結晶スラブ導波路(PC-WG)は、強い光閉じ込めや低群速度を利用した光非線形・群速度分散型超小型・超高速・超低エネルギー光デバイスに有望である。筆者らはこれまでGaAs系PC-WGに埋め込まれたInAs-QD(量子ドット)のキャリア実励起型光非線形効果を用いてSMZ(対称マッハ・ツェンダー)型全光スイッチで低エネルギー(100fJ級)・超高速(数10ps)動作をなす超小型光スイッチ(PC-SMZ)の実現に成功した。しかし、今後の高集積化を目指した一層の低エネルギー化を測るには、多光子過程による実励起を伴わない仮想励起の利用が有望である。この場合、光通信波長帯(1.55μm)では、AlGaAs化合物半導体が有望な材料となる。本研究では、この様なキャリアの実励起の回避が可能な光カー効果に基づく自己および相互位相変調(SPMおよびCPM)、格子振動による誘導ラマン散乱(SRS)などの非線形光学現象を観測し、これらの利用による超低エネルギー動作が可能な光-光スイッチや光増幅素子実現のための基礎研究を行う。1年目(18年度)は、Al_<0.26>Ga_<0.74>As系エアブリッジ型線欠陥PC-WGを作製し、1.55μm帯における自己位相変調(SPM)の観測に成功した。即ち、格子定数:444nm、コア厚:260nm、全長:1mmのPC-WGに、パルス幅1.6ps、繰り返し周波数80MHzのレーザーを入射して透過光のスペクトル形状を観測し、入射パルス光の試料伝搬に伴うスペクトル幅の広がりにより2つのピークを持つスペクトル形状を確認した。このときの位相シフト量は、わずか1mmの試料で約1.3πであった(入力パワー:2.1W)。この結果はシミュレーションとも良く一致した。この結果は、今後の誘導ラマン散乱などの非線形光学効果の確認を経て、超高速光-光スイッチや光増幅器などの設計に資する。
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