位相共役波は空間反転性を示す光である。位相共役波を発生する位相共役鏡を用いると光が伝播中に受ける様々な位相歪を自動的補償することができる。例えば、高出力レーザー装置に適用するとレーザー装置に発生するいかなる熱収差も自動補償し、高いビーム品質を維持したまま高出力レーザーを発生させることができる。もし、位相共役鏡を超微細加工、量子分光で標準光源となりつつあるサブピコ秒〜フェムト秒領域で利用できたら、回折限界に迫る高いビーム品質を示す画期的な次世代高平均出力超短パルスレーザーを創成できる。しかしながら、現在、サブピコ秒〜フェムト秒領域において実用レベルにある位相共役鏡は国内外に実在しない。 本研究の目的は大きな誘導放出断面積と広いレーザー利得帯域を示す新しいレーザー結晶、無秩序結晶(バナデート混晶)が示す利得飽和効果を極限まで有効利用し、サブピコ秒〜フェムト秒の超短パルス光に対して究極的な性能(高反射率、超広帯域、超高速応答、高光損傷閾値)を示す位相共役鏡を実現することである。 今年度はバナデート混晶の誘導放出断面積、飽和強度など主な物性を明らかにするために、Nd:Gd_xY_<1-x>VO_4結晶を取り上げ、能動、受動Qスイッチにおけるレーザー特性を解析した。その結果、100-650kHzの範囲で安定なQスイッチ動作を示し、レーザー出力も10Wを超えることから、バナデート混晶が良好なレーザー結晶であることがわかった。また、混晶比xやNd添加濃度を変えることで、バナデート混晶の誘導放出断面積、利得帯域、蛍光寿命などが自在に制御できることが明らかになった。
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