研究概要 |
冠循環における毛細血管の容積率が10%以上にも達し,拡張期に冠動脈から流入する血液を貯蔵する役割は主に毛細血管が担っている.また,心筋の収縮・拡張が心筋内冠血管に与える外圧の変化を通じて血流の分布に大きな影響を及ぼすことも知られている.本研究では多相混合体理論(Multi-phasic Mixture Theory)を導入することによるこのような冠循環メカニズムの解明を目指している.即ち,心筋を心筋基質及び細血管・毛細血管内の血液からなる混合体として,心臓の拍動に伴う心筋の収縮・拡張を各血管系の容積率変化と直接関連付けることにより,心周期における心筋内血流の貯留・排出やslosh現象など血流形態を再現させる.これまでにまず心筋を心筋基質と血液からなる2相混合体として冠循環シミュレーションを行い,本研究の基本的考え方の有効性を検証した.さらに細動脈は血管の収縮拡張による調節機能を有する「抵抗血管」として機能するため,細動脈と細静脈・毛細血管を異なる流体相としてモデル化を行い,それぞれの相の流れに対する抵抗は各流体相と固体相間の相互作用を表す透過率(permeability)として定量化され,また細動脈の「抵抗血管」効果は血管壁のコンプライエンスを導入することによって反映させる.これらにより多相混合体理論による数理的マルチスケール冠循環モデルを構築した.現在,固体相及び流体相に非圧縮性を課すLagrange Multiplier法を導入した重みつき残差法による非線形有限要素法の定式化及び離散化・剛性マトリックスの導出が完了し,構築した解析プログラムのプロトタイプに対してデバッグ作業を進めている.
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