研究概要 |
次世代エネルギーの有望策のひとつに水素利用があげられるが,水素環境での金属疲労・摩擦摩耗特性に対する知見は不十分である.低圧の水素ガス環境中では,フレッティング疲労強度が大気中に比べて低下することが明らかになっており,より高圧の水素ガス環境中,あるいは,長期使用後に材料に大量の水素が侵入した状態のフレッティング疲労強度は水素利用機器の安全性確保の観点から極めて重要な解決すべき課題である. 第一年度である本年度は,1MPa級の水素ガス環境中でフレッティング疲労試験を実施できる試験機の開発に取り組んだ.高圧ガス機器であること,爆発性の水素ガスを使用することを考慮して,実験装置の安全性確保には細心の注意が必要である.本装置には安全確保策として,水素ガス漏洩に対し(1)水素ガス容器は密閉し,回転・摺動等のシール部を持たない構造にする,(2)水素ガスの封止は二重構造とし,万一水素ガス容器から漏洩が発生してもその外側の容器で大気中への漏洩を防止する,(3)二重構造の中間と試験部の空間に差圧をつけて,各封止構造の負担する圧力を相対的に減少させる,(4)中間部の圧力監視を行い,圧力変化で水素ガス漏洩を検知するシステムにする,等を組み込んだ.試験装置はほぼ完成し,ガス中試験を実施できる状態とした. 本年度は,水素ガス中の試験データとの比較データとして,大気中でのフレッティング疲労試験を実施した.供試材は,水素利用機器材料として用いられているSUS316Lと比較材としてのSUS304,それらに予ひずみを付与して硬化させた材料,さらに,上の4材料に水素チャージを行った材料である.水素チャージは陰極チャージ法を用いて行った. 大気中のフレッティング疲労試験では,フレッティング疲労強度に水素チャージの影響は顕著には見られなかった.今後は,水素ガス環境中での実験を実施する予定である.
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