水素エネルギー利用は機器の実証試験段階にあるが、水素環境中の金属疲労や摩擦・摩耗特性の知見は不十分である。水素利用機器の構成材料が高圧水素ガス環境に長期に曝されることを考慮して、金属材料に大量の水素が侵入した状態のフレッティング疲労強度評価を行うことは、水素利用機器の安全性・長期信頼性確保の観点から極めて重要である。 昨年度に第一の研究課題である1MPa級水素ガス環境中フレッティング疲労試験装置の開発を完了した。本年度の主な研究項目はその試験装置による実験遂行である。試験片に水素を侵入させるため、陰極法と高圧水素ガス曝露法による水素チャージを行った。陰極法では8ppm、高圧水素ガス曝露法では60ppmの材料中水素濃度が得られた。後者は100MPa級のガス中での飽和値に相当する高い水素量である。試験環境は大気中と水素ガス中とし、両方の環境においてチャージ材と未チャージ材を試験した。供試材はSUS304加工硬化材である。 大気中におけるフレッティング疲労限度は、水素チャージにより約18%低下した。水素ガス中におけるフレッティング疲労強度は、未チャージ材においても低下した。水素ガス中における水素チャージ材のフレッティング疲労強度は、未チャージ材の水素ガス中と比較しても顕著な差は未だ認められていない。また、2種類の水素チャージ材の材料中水素濃度には7.5倍の差があったが、フレッティング疲労強度には差がみられなかった。これらのことから、水素ガス中では材料中に予め吸蔵した水素はフレッティング疲労に対して著しい影響を与えない可能性が示唆された。水素ガス中でフレッティング疲労強度が低下する理由の一つに、接触面間に作用する接線力が水素ガス中の方が大気中に比べ増加したことがあげられるが、接線力の大小には水素チャージは影響を与えないことが明らかになった。
|