研究概要 |
本研究の目的は,多段ポンプの構造を採用することにより高揚程・低流量という運転条件に適した血液ポンプを開発することである.前年度の研究では,これまでに類を見ない多段式血液ポンプの設計要素に関して入念な検討を加えることでポンプの基本設計を完了し,第一次モデルを試作した.試作ポンプの性能に関しては水力学的な基本性能を満たしていることを確認した. 本年度は,血液適合性の獲得を目的としてポンプ内部流れに関する数値計算を実施し,その結果に基づいて第二次試作モデルの製作を行った. 1.血液適合性の獲得を目的としたポンプ内部流れの数値計算 血液ポンプ内部において発生する流体力学的要因による血球の破壊(溶血),ならびに血液の停滞によって形成される血栓に関して,数値計算力学によって得られたせん断応力分布に基づいて第一次モデルでの好発部位を特定することを試みた.得られたせん断応力分布からは,羽根車翼端側のケーシング側面,案内羽根前縁,ダブルボリュート前縁,羽根車外周に溶血の原因となる高いせん断応力が発生していることと,戻り流路内で血栓形成の原因となる淀みが生じることが明らかとなった. 2.第二次試作ポンプの製作 数値計算により得られた問題点の解消のために,以下の点に関する設計変更を行ったモデルを製作した. ・羽根車へのフロントケーシングの付与 ・ダブルボリュートケーシングと羽根の距離拡大 ・案内羽根にシュラウドを設置 試作機については,ポンプ内部の漏れ流量拡大等の影響により,水力学的性能は若干低下しているがその影響は軽微である.数値計算に基づいて形状変更を施した結果,ポンプ効率を大きく損なうことなくポンプ内部での溶血に関わる高いせん断応力の領域を低減し,血栓形成に関わる淀み領域の解消に成功した.
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