外部電源を必要としない、いわゆるポータブル型超伝導マグネットの実現を目指して、本研究では、熱電素子によって高温超伝導コイルに通電し、1テスラを超える磁束密度の発生を実証した。このシステムでは、超伝導コイルの作動温度である極低温と室温との温度差を利用して、熱電素子で発生する起電力により通電を行なう。熱電素子以外の部分の電気抵抗は、ほぼ0なので、小さな熱起電力でも大きな電流をコイルに流すことができる。熱電素子を極低温で使い、しかも電力を取り出すのではなく無負荷状態で使う、珍しい使い方である。 まず高温超伝導コイルに接続する熱電素子の設計・製作・性能実験と、コイルの設計・製作・冷却及びコイル単体の性能実験を行った。熱電素子は、20mm四方で厚さが1.5mmのビスマス・テルル系(Bi_2Ti_3)p型半導体とした。高温超伝導コイルは、ビスマス2223超電導線を用いて内径120mm、外径236mm、厚さ31mmとした。 本実験では、2段GM冷凍機によって熱電素子とコイルを冷却した。熱電素子の一端を電気ヒーターによって加熱し、熱電素子高温端温度100K、低温端温度60K、コイル温度約10Kとしたとき、コイル中心で1.4テスラを発生した。そのときの電流値は155Aであった。これらの結果は、コイルの超伝導特性や熱電素子の諸特性を考慮した計算から予測されるものとほぼ一致した。一方で、熱電素子だけで励磁すると、155Aに達するまでに7時間もかかることが明らかになった。今後このシステムを実用化するためには、励磁・消磁には外部電源と熱電素子を併用して時間短縮を図り、定常時には電流リードを切り離して、熱電素子だけによる通電するシステムの開発が必要である。
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