研究概要 |
生体細胞は生物の基本単位であり,細胞単独もしくは細胞の集合体として周囲の環境に適応し,不要な外界からの刺激を遮断し,かつ細胞内部を生命維持のために常に最適な状態に保っている.細胞は,従来は生物学や生化学の分野で扱われていた対象ではあるが,これを極小の機械として捉えると,今後機械工学分野で開発研究が期待されるマイクロマシンやナノマシンに対して多くの事柄を示唆する対象でもある.しかし,生体細胞の機械的特性,特に動力学についてはほとんど明らかにされていない.本研究は,生体細胞の構造,特に外界からの機械的刺激に対応する各部位の構造・応答に着目して,その特性を機械構造物の制振技術に応用することを最終的な目標としている.平成18年度は細胞膜および核膜の動的特性の同定を行った.油圧駆動マイクロマニピュレータを顕微鏡に一対設置し,ガラス製のマイクロピペットの弾性を利用して細胞膜および核膜の等価弾性係数およびクリープ特性を測定することに成功した.平成19年度では骨芽細胞における機械的刺激による骨形成関連遺伝子発現量の変化について実験的な検討を行った.遺伝子発現量は本補助金で購入したRT-PCRにより測定した.PCRは特定のDNAの配列を酵素反応で増幅させる手法であり,転写されたRNAから生成されるタンパク質の量を定量的に推定することで,受容体の特定が可能となる.その結果,石灰質の産生を促すタンパク質であるアルカリフォスファターゼ(ALP)の遺伝子発現量の変化を測定でき,ある特定の周波数領域で特にその傾向が顕著になることを実験的に明らかにした.しかし,ALP発現量が変化するまでのシグナル伝達の同定には至らなかった.この成果から機械的刺激を感知するセンサーは明瞭な周波数特性を有していることが示唆される.その動力学的同定が今後重要になり,細胞の動的特性の解明につながることが期待される.
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