研究概要 |
電波の生体影響に関心が寄せられているが、その尺度である人体全身平均SARについては,実測が困難であるため,球モデル,ブロックモデルなどの人体を簡易化したモデルを用いて計算されてきた。計算環境の発達した最近では精巧な解剖学的人体全身数値モデルに対して時間領域差分法による計算推定が試みられるようになっている。しかしながら,これらの報告では,以下のような問題点が存在するため,それを考慮した上で,従来の結果の有効性を検討する必要がある。1)in-vivo測定(=生きた人体組織に対する測定)による信頼性の高い電気定数が存在しない,2)大規模数値計算にもとづく数値解析結果は,人体数値モデルや計算アルゴリズムに依存する可能性,3)女性あるいは子供など,異なる寸法の人体モデルに対する全身平均SAR評価。そこで,本申請では,これらの点を明らかにした上で,得られた全身SAR分布を熱源とし,生体熱輸送方程式を解くことを目的とする。 本年度は,特に,球状あるいは回転楕円柱など簡易なモデルを用いた場合とリアルな人体をモデルを用いた場合の,全身平均比吸収率の差異について検討した。特に,得られた結果を海外および国内の複数の機関で得られた結果と比較し,解析結果の妥当性を確認した。また,昨年度構築した人体における解析手法を用いて,電波を照射した際の深部体温の解析を行い,全身平均SARと温度上昇の間にはよい相関が成り立つという知見を得た。なお,この知見は電波防護指針の科学的根拠を裏付けるものであった。
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