有機EL素子に用いられる正孔輸送材料と正孔阻止材料に対する有機アロイ膜の作成と評価を行った。正孔輸送材料では、トリフェニルジアミン誘導体(TPD)とナフチル置換ジアミン誘導体(NPD)を用いて行った。本研究の遂行のために、新しく安定に作成できる真空蒸着装置のチェンバーを導入し、その最適な成膜条件を検討した。その際に蒸着源の安定化に時間がかかることが判明したので、急遽蒸着用電源を追加することにより、素子作成時間の短縮化ができるようにした。 TPD、NPDそれぞれのガラス転移温度はそれぞれ約60℃、90℃である。TPDは成膜後約1日、NPDは成膜後約3日で結晶核が確認できる。その後の多結晶化進展は、NPDは約30μm/day(保存雰囲気40℃、70%RH)で進展するが、ガラス転移点の低いTPDはそれよりも3倍速い約100μm/day(保存雰囲気40℃、70%RH)で進展することがわかった。これに我々の手法である有機アロイ膜を適用すると、多結晶化の進展速度は1/10以下まで低下し、多結晶化現象を抑制できた。ただし、作成条件により進展速度がさらに低下させることができることがわかったが、最適条件については現在探索を継続している。 正孔阻止材料として、バンクプロイン(BCP)をベースとした有機アロイ膜を作成した。BCPは多結晶化が非常に速く、実用的に不安を抱える材料であるが、有機ELのみならず有機薄膜太陽電池においても励起子拡散阻止材料としてよく利用されている重要な材料である。ここではオキサジアゾール誘導体(PBD)などと組み合わせることにより、有機アロイ膜を実現した。その結果、膜構造の安定化が実現され、それに伴い電子移動度の測定も可能になるということを見いだした。現在、成果については投稿中である。
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