当該研究では、電子間クーロン相互作用を3次元粒子シミュレーションに高精度に導入することを研究の主目的とする。具体的には、ポアソン方程式を適切に解いて長距離成分を電子の運動方程式に組み込むと同時に、二体間で働く短距離成分を遮蔽されたクーロン・ポテンシャルを摂動ポテンシャルとした散乱機構として導入する。本年度は、昨年度検討したクーロン・ポテンシャルの長距離成分と短距離成分を、同時に3次元シミュレータに導入したうえで、現実的なデバイス構造(ダブルゲートMOSFET)のもとでの電子輸送シミュレーションを、以下のように総合的に評価と検討を行った。 (1)ボアソン方程式とモンテカルロ法との自己無撞着な結合によってクーロン・ポテンシャルを導入し、バルク形状のもとでの電子移動度の不純物濃度依存性を評価した。その結果、1020cm-3の高濃度領域までの電子移動度を自由パラメータ無しで実験結果を再現することに初めて成功した。さらに、電子の平均自由行程と不純物間平均距離、散乱頻度、定常輸送と過渡応答等を考察し、不純物の空間分布による輸送機構を明らかにした。 (2)3次元粒子シミュレータにデバイス構造(ダブルゲート構造MOSFET)を組み込むための粒子シミュレータの拡張を行った。そのうえで、ダブルゲート構造MOSFET構造のもとでの電子輸送シミュレーションが正確に動作することを、高濃度なドレインとソース領域でのプラズマ波の励起、高濃度電子の移動度、電子の縮退状態、を考察することで検討し、動作の正当性を確認した。
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