研究課題
超音波反射計測は、医療分野や海洋計測、その他の計測分野で広く用いられている。しかし、超音波が波動として伝播する際に生じる多重反射や屈折、サイドロープなどがさまざまな虚像(アーティファクト)を生み出す。本研究の目的は、得られた観測原画像を複素ニューラルネットワークによって適応的に処理することによりアーティファクトを特定・除去して、より正確な読み取りやすい超音波画像を得るための基礎原理を確立することである。申請者らが提案し研究を推進してきた複素ランダム・マルコフ・フィールド(CMRF)モデルと複素ニューラルネットワークをその理論の基礎とする。複素ニューラルネットワークは脳機能を模擬したニューラルネットワークを拡張し、位相情報を明示的に扱うことによって波動現象を適応的・柔軟に扱えるようにしたものである。これを適応的な複素振幅画像処理に用いて、画像中のある映像がアーティファクトであることの特定とその除去の方法を構築する。本年度の研究では、受信用圧電素子の電子出力(パルスの中に波動を含む)のうち、基本周波数を直交検波するシステムを構築した。この際、次の2点に留意した。(1)位相精度:位相値の精度については、シミュレーション実験及び第2年度の実際の生体・物体を対象とする実験の結果を評価して、必要な精度を得るようにフィードバックを行う。(2)パルス長との関係:超音波パルスは通常短いほうが解像度が上がるが、位相検出の精度は下がると考えられる。このトレードオフをどのように考えるべきか、実際の計測データを得ながら最適化を図ることになると考えられた。実際には、次のようにシステムを構築することに成功した。すなわち、受信信号をはじめにA/D変換してしまい、これをFFTすることによってスペクトルを得るシステムを構築した。これによって、上記位相精度についてソフト的に柔軟に対応できることになった。また、基本周波数成分のみならず、同時に高調波成分を得ることも可能になり、また任意の周波数成分の位相を取り出すことも可能となった。これによって得られたデータに対し、われわれがCMRFモデルに基づいて提案している「位相特異性拡散法」によって、スペックルを大幅に低減することに成功した。
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