超伝導体中の量子化磁束を情報担体とする単一磁束量子論理回路は、高速性、低消費電力性に優れるが、超伝導インダクタンスを用いて磁束を保持するため、原理的にゲートサイズは数μm程度に制限される。これに対して本研究で提案する位相量子論理回路は、ジョセフソン接合の位相差を用いて磁束を保持するため、原理的に数十nm程度のサイズの論理ゲートが作製できる。 本研究では、Nb集積回路プロセスを用いてナノスケール集積化が可能な位相量子論理回路の原理実証と設計方法論の確立を行ない、演算回路やメモリシステムの試作を通して回路の基本特性を明らかにする。 本年度は、昨年度に確立した等価ジョセフソンインダクタンスの算出法と位相量子論理回路の設計方法論を用いて、論理回路の構成に必要な幾つかの基本ゲートを設計した。また、超伝導ファゥンドリープロセスを用いてそれらの基本ゲートを試作し、動作検証を行った。具体的には、伝送線路、パルス合流回路、分岐回路、Dフリップフリップ等の基本ゲートにおいて、大規模回路の作成のために十分なDC電源の動作マージンを得ることができた。更に、大規模集積化メモリーの実現を念頭に、位相量子基本ゲートを用いてシフトレジスタを試作し、その動作実証を行った。開発した位相量子論理回路に基づくシフトレジスタは、従来のシフトレジスタに対して大幅な回路面積の低減を達成した。以上の様に、位相量子論理回路の設計手法を確立し、小規模回路の安定動作を示すことにより、高密度集積化が可能な単一磁束量子回の実現が可能であることを示すことができた。
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