本研究では、極薄トンネル酸化膜上に形成されたナノドットとSi基板間の量子トンネル伝導による不規則電子遷移(充・放電)を利用し、ゆらぎや擾乱の中で閾値を制御する「確率共鳴素子」の基本となる量子電子物性を発現させ、次世代素子の要素構造開発を目指した。具体的には、1] ナノドット配列群からの量子トンネル現象による確率的電荷充・放電の制御、2] 完全不規則電子応答現象の誘起、3]不規則時間応答など確率論的に閾値が制御可能な新機能素子への応用、の3課題を遂行した。 確立した極薄トンネル酸化膜形成技術を活用し、厚さ1nm 程度の高品質トンネル酸化膜を制御性良く作成できた。その上に、ナノドットアレイを埋め込んだ構造を作成し、その電子物性を評価した。ナノドットと基板間の電子の充・放電現象を走査型プローブトンネル顕微鏡や導電性プローブを用いた原子間力顕微鏡により詳細に解析し、ナノドットからの電荷の充・放電を初めて確認し、さらに、バンドエネルギーラインアップを特定した。 配列したナノドット群からの電荷充・放電現象が、マクロに現れる容量変化の過度特性を解析したところ、秒単位以上の長い時定数を持つ過度特性が観測された。単一ドットからの放出はトンネル現象であり、時空間では極短時間(ピコ秒程度)で確率的に放出される。マクロな集団としての放出過程との関連解明を進めている。トランジスタにこの極薄酸化膜構造を組み込むと、信号の立ち上がり時間に対応して閾値が制御できることを初めて実証した。今後、ニューラルネットワークの要素素子としての応用が期待される。
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