研究概要 |
研究代表者ならびに研究分担者らは,事前の基礎的な研究において,生態や水質・水理を主眼とする従来研究とは異なった新しい研究」アプローチ"生態地盤工学"を新たに展開し,干潟土砂に着目した研究に取り組んできた.その結果,干潟土砂表層において,潮汐に伴う地下水位変動に起因したサクションの有意な動態を観測するとともに,大型水槽実験と結果の理論モデル化/解析を通じて,サクション動態が表層地盤の間隙構造の形成に重要な役割を担っていることを明らかにした. これらの事前の研究成果を踏まえて,本研究の初年度に当たる平成18年度は,実際の干潟地盤において,地球物理学的手法を適用して堆積構造の効率的かつ定量的な把握,ならびに,その堆積構造の形成要因を考察した.加えて,砂質干潟における典型的な巣穴底生生物であるコメツキガニを取り挙げて,住活動形態と土砂環境動態の関わりを現地観測により調べ,一連の室内生物実験により巣穴住活動に適合した土砂環境場を明らかにすることを試みた。また,任意時刻に低空で自律飛行できる小型のUAV(無人飛行機)を活用して,搭載した小型デジタルカメラで撮影した航空写真により干潟微地形を効率的に時空間評価する手法を開発し,その適用性を検討した,得られた成果は以下に示すとおりである. ・地球物理学的手法の一つとして採用した表面波探査は,地盤の硬軟に対応したせん断波速度によって干潟地盤堆積構造を効率的に把握することにおいて有効である.探査や物理試験により定量化された干潟堆積構造(地盤の硬軟,間隙分布)は,波浪や潮汐流を通じて土砂が堆積した後,潮汐に伴う地下水位変動の影響を受け,これに起因したサクション動態に基づく土骨格の繰り返し弾塑性変形の帰結として定量的に説明できることを明らかにした. ・コメツキガニの巣穴住活動における適合場すなわち臨界・最適・限界状態は,間隙状態に応じてサクションによって誘起される土砂環境場(粘着力と硬さ)が支配していることを一連の室内地盤及び生物実験を通じて明らかにした. ・干潟は波浪の影響が極めて小さく穏やかな水面を有することから,小型UAVを使った低空からの高分解能航空写真撮影で水際線の変化を捉えることにより,きわめて平坦な干潟地盤の微地形を効率的かつ精密に把握できることがわかった.自然干潟のみならず,人工干潟の場合には,地盤高の管理にも有用な手法であると思われる.同手法において高分解能画像を得れば底生生物の巣穴やその密度等をも捉えることができ,干潟微地形と干潟生物とを関連づけるような研究においても今後の発展的活用が期待される.
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