Katayama et al(2002)が開発したウイルス濃縮方法である陰電荷膜-酸洗浄-アルカリ誘出法(以下、陰電荷膜法)のうち、Mg^<2+>添加法の適用範囲と限界を明らかにすることを目的に、ノロウイルスGIとGIIが存在していることが明らかとなっている下水(最初沈殿池流出水)を対象として、ろ過水量とウイルス回収量との関係を調べた。陰電荷膜には、直径90mm、孔径0.45μmのHAフィルター(Millipore)を用いた。ろ過水量が100mL以下の場合、ろ過水量を多くするにつれてウイルス回収量が増加し、ろ過水量とウイルス回収量の間には正比例の関係が認められた。しかしながら、ろ過水量を200mLに増加させると、ウイルス回収量が増加することは稀で、ほとんどの場合、回収量は減少した。ろ過水量をさらに増加させて、目詰まりによりろ過不能となる限界付近である300mLにすると、回収量の減少傾向はさらに顕著になり、ろ過水量が多いにもかかわらずウイルス回収量は大きく減少した。このことは、陰電荷膜法を用いて定量する場合には、目詰まりが生じない範囲であっても、ろ過水量の上限があることを強く示している。ろ過水量の影響が及ばない水量の上限値は、下水の場合おおむね100mLであり、これを超える量の下水をろ過して得られた定量値は、実際の濃度よりも過小に評価していることになる。ちなみにろ過水量200mL及び300mLのときの回収量から計算されるウイルス濃度はそれぞれ、実際の濃度(限界ろ過水量以下で得られた値)の1/3及び1/10以下となり、限界を超えた水量をろ過して得られたウイルス定量値は、その信頼性が大きく損なわれることが明らかになった。
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