研究課題
「聴く建築」とは、音/聴覚の観点からヒューマン・スケールな空間を捉え、空間形態、空間領域を構築していくための枠組みである。音環境/聴覚と空間認識との相関性に着目し、音を聴覚的刺激としてだけではなく、統合的な感覚要素として捉え、音環境/聴覚によるトータルな環境・景観=「音の景相(オムニスケープ)」の観点から、新たな空間領域形成・空間設計の可能性を追究した。実際の研究では、研究方法そのものの独自性も追究して研究を進めた。従来の建築、空間設計が扱う聴覚的問題が限定的である状況において、より多様な観点から音/聴覚を通して空間にアクセスするために「音のイメージブック」を作成し、音/聴覚と空間の相関を分析した。また、ギリシャ共和国、熊野本宮大社、屋久島における音のフィールドワークを行い、都市空間、自然環境における音環境について多角的に調査・分析を行った。さらに、先端的音響テクノロジーを空間設計に積極的に取り入れるため、音を視覚化する「音カメラ」を使用したインスタレーションを実施し、立体音響システムによる展示の提案を行った。この2年間にわたる音/聴覚と空間の相関性についての、既往の研究方法にとらわれない多様な研究を通して、音カメラ、超指向性スピーカ、立体音響シムテム等の音響工学的テクノロジーを活用した建築空間の提案、聴覚的空間認知によって生成される空間設計手法、音を意識的に聴くための新たな場の提案を行い、「聴く建築」への方向性、可能性を提示するに至った。また、本研究にて得られた成果を、実際の都市空間、建築空間等において、空間設計やインスタレーション等のプロジェクトを通して、順次発表していく予定である。