1.伝統的な町並みの住民の防火対策と美観についての意向について、重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)に指定されている和歌山県湯浅町、岐阜県高山市三町、及び、奈良県橿原市今井町において実施し、受け入れられる延焼範囲、防火改修、消火活動等について、街区内の一般住民へのアンケートにより把握した。また、これらの市街地についての建物・道路等のデータの収集・整備を行った。 2.住民や施工業者に受け入れられる防火改修設計につき、関係者による研究会を開催し、外壁について9種類の仕様を考案した。これらの仕様による試験体を小型加熱炉で標準加熱温度曲線により加熱し、性能検証を行った。 3.延焼シミュレーションモデル(物理モデル)への防火改修等による延焼阻止効果の組みを行うとともに、実際の市街地で地域消防力によってどの程度火災の拡大が抑制されるのかについて検討をケーススタディにより行った。ケーススタディの対象地は高山市三町伝建地区である。また、市街地の更新によって火災安全性の向上を行った神戸市長田区においても同等の検討を行い対策としての効果を比較し、その効果を把握した。地域消防力とその活動対象である火災という現象は、気象条件や出火条件など多様な要因によってその状況が大きく変化するものであるので、リスクの概念に基づき、出火条件や気象条件、地域住民の活動条件を不確定なパラメータとし、モンテカルロシミュレーション(複数回の試行)を実行することで、最終的な損失期待値(火災拡大による焼失棟数など)、すなわち火災リスクを求めている。リスク評価の結果、市街地を更新する手法に比べて、地域消防力の向上により火災安全性を確保する方法は、人的要因による不確定要素を多く含むため、その効果を恒常的に見込むことは難しいこと、火災安全対策立案時には2つの対策の質的な効果の違いを考慮することが必要であることが確認された。
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