電子線励起X線ホログラフィーにおいては、より低濃度の試料を測定するには、通常の半導体検出器ではなく、分光結晶を用いエネルギー分解能を向上させた検出システムが必要になる。そこで、我々は、高温加圧法によって円筒状に成型したGeの分光結晶を作製し、さらにその発展型として、一度に複数の元素からの特性X線を、受光面積の狭いX線CCD上に一度に結像させることが可能となる曲率傾斜結晶を作製した。研究室のX線源を用いた測定では、NiからGaまでの特性X線を全てエネルギー分解能15eV以下でスペクトルに変換させることに成功した。また、そのシステムをSEMに組み込むために、曲率傾斜結晶をSEMチャンバー内で調整できる5軸ステージの開発と、X線CCDを取り付けるためのチャンバーとステージを製作した。一方、X線ホログラフィーにおいては、T1系の熱電材料のひとつであるT1InSe2を対象試料として、T1原子を中心としたホログラムの測定を行った。ホログラムから原子像を再生させた結果、中心T1原子に最も近いIn原子は明瞭に観測されたが、2番目に近いT1原子は極めて弱かった。T1原子による散乱は散乱断面積が非常に大きいので、In原子による散乱と比較して強いはずである。従って、本結果は、インコメンシュレート相においてT1原子の原子位置に大きなゆらぎが存在することを示している。中心T1原子が独立にこのような大きな位置ゆらぎを持つのであれば、全体的にイメージが弱くなるはずであるが、In原子の像は明瞭であるので、最近接In原子はT1原子のゆらぎに追随して変化していると考えられる。このように、T1原子は大きくゆらいでおり、また、そのゆらぎが独立ではなく、最近接In原子と強調しながら起こっているらしいことを見出した。
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