本研究で用いられる影像歪法は、透過電子顕微鏡のいわゆるLowMagモードにおいて、設計上結像に関与しない制限視野回折絞りの陰が歪む現象を用いている。この現象を幾何光学的に解析し、メカニズムの検証、再現性・定量性がどの程度の測定範囲において保証されるかを調べた。 特に、試料に外部から電位を印加した場合、試料周辺へ漏れ出た空間電場が観察を阻害することがある。試料周辺の空間電場を評価し、不必要な電場分布を押さえる方法を検討した。まず、試料位置に任意の形状の電極を置いた場合の、電極周囲の電位分布を差分法を用いて求めた。試料より漏れ出た電場による電子線の偏向がより小さくなる電極形状を求め、得られた形状の電極を作成し電子線の偏向度を評価した。試料位置に単純な平行平板電極を置き電子線を偏向させた場合、電子線の偏向角に影響を与える電場の水平成分の分布は電極厚さの50倍の領域にも及びその強度は電極にかけられた電位差比例することが分かった。この試料上下面での電場の水平成分の分布を考慮すると、電極間にのみ電場があると考えた場合の2〜4倍の角度で電子線が偏向されることが分かった。様々な電極形状を検討した結果、試料に電位を印加する電極上下面に、電子線を通過させるスリットを設けた接地電極を置くと、試料上下面への空間電場の漏れを、電位印加電極・接地電極間の3倍程度に出来、試料上下面の電場による電子線の偏向を大幅に低減できることが分かった。 さらに、従来の方法では中間レンズを用いて結像を行うため、分解能・拡大倍率に制限があるため、対物レンズを用いて結像する通常のモードで、影像歪法を実現する方法を検討した。本手法は幾何光学的にはLorentz法のFaucoultモードと同じであるが、絞りの影の移動量に注目する。現実の透過電子顕微鏡では、対物絞りの位置は対物レンズの焦点面からずれており、対物絞りの影が結像面上で観察される。幾何光学的解析より像内での絞りの影の移動量は、偏向角に比例することが分かった。観察において、対物絞りの影の移動量は、印加した電圧に比例し、新たなタイプの観察手法が開発された。
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