本研究で用いられる影像歪法は、透過電子顕微鏡のいわゆるLowMagモードにおいて、設計上結像に関与しない制限視野回折絞りの陰が歪む現象を用いている。この現象を幾何光学的に解析し、メカニズムの検証を行った。特に、最終年度である本年度は、定量測定のための測定パラメータの決定を行った。 幾何光学的解析に於いては、昨年度の対物レンズ及び中間レンズ系に加えて収束レンズ系の解析を加えた。収束レンズ系における電子線の広がり角、及び集束点の位置が、検出感度に影響を与えることを示し、その補正パラメータを測定した。また、対物レンズによる電子線の収束、中間レンズによる結像による、拡大倍率・感度を決めるパラメータを測定した。測定結果と電極周囲への電場の広がりを考慮した計算機シミュレーションを比較した結果、測定が電場・磁場による電子線の偏向を検出することに行われている事を確認し、測定値を直接電場の値へ変換できることを証明した。また、いくつかの実用材料へ本手法を適用し、デバイス周辺の電場分布測定を行った。 一つとして、半円形の金属孔にカーボン膜が張られたものと、張られていないものの電場を比較することにより、電場分布値の平行移動成分と、局所変動成分を分割することで、試料極近傍での電場分布を抽出することに成功した。これまでの他の電場・磁場測定法に比べて、半定量的にではあるがz方向の分布を測定できることが示されたことは新しい。 さらに、本研究を通じて開発された透過電子顕微鏡試料ホルダーへの電極組込技術を発展させることにより、イオン伝導体の高温での電位印加状態での相変態の観察を行うために必要なツールの開発が可能となった。透過電子顕微鏡試料ホルダーに組み込むことの出来る、試料への電圧印加・加熱カセットを用いセリア・ジルコニアセラミックスの電圧印加・加熱状態での相変態を格子像レベルで観察することに成功した。また、同様の技術を発展させることによりナノギャップデバイスの動作状態を原子レベルでその場観察することが可能となり、デバイスのメカニズム解明の可能性が見えてきた。
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