SrCoO_3系ペロブスカイト型酸化物について、試料を所定の温度T_qからクエンチし、凍結された結晶構造と熱物性の関係を詳細に検討した結果、酸素イオン副格子の無秩序相から秩序相への遷移域において、熱拡散率αならびに熱伝導率kが完全に可逆的に増減し、これに伴って音速が最大1/2以下まで低下することを見出した。高いクエンチ温度T_qでのαの急激な増大は、秩序相であるブラウンミラライト(BM)相が増加するためと考えられ、酸素空孔が秩序化したBM相はランダムなペロブスカイト(P)相より構造的にαが高いことが示された。 クエンチ後の音速はT_q=800℃で約1/2まで減少し、その後再び増大した。これは熱拡散率αのT_q依存性とよく一致する。一方、フォノン平均自由行程は予想に反して減少せず、逆に高いT_qでやや増大した。この温度域では酸素欠陥が秩序化したBM相が支配的なため、平均自由行程が伸長したと考えられる。T_q=600℃〜800℃のP相からBM相への遷移域で音速が半分以下まで低下するという事実は我々が初めて見出したもので、固体中の弾性波の基本式に基づけばヤング率が1/√2に、つまり元の約7割まで低下したことに対応する。これほどのヤング率の低下は通常では考えにくく、ランダム構造のP相中で酸素欠陥が秩序化し始める際に、金属-酸素結合の非調和性が増してフォノンの群速度が低下している可能性がある。T_q=800℃以上では秩序構造のドメインが急速に発達するため、非調和性は減少してフォノン速度が回復するとともに、酸素空孔が秩序化してフォノン平均自由行程が伸びると考えると、これらの挙動をよく説明できる。金属イオンの配列構造を保持したまま、アニオン副格子のdisorderや金属-酸素結合のソフト化によりフォノン伝導を効果的に抑制できる可能性を示唆する結果として興味深い。
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