研究概要 |
本研究では,大きな歪勾配を定量的に与えることが可能な高圧ねじり試験(HPT:High Pressure Torsion)を使って,歪量と歪勾配を独立に変化させた試料を作製し,材料の高強度化や組織の微細化に対する歪勾配の影響を定量的に解明することを目的として行った。代表的純金属(Al,Ti,Ni,Cu,Fe)にHPT加工を施して硬さを測定したところ,融点の低いAl,Cuでは再結晶が,Tiでは圧力誘起変態が観察された。そこで,加工度と歪勾配の影響のみが発現するFeを使って,歪量と歪勾配の硬さに対する影響を測定した。その結果,純鉄においては顕著な歪勾配硬化が観察された。純鉄の引張試験の結果では引張強度2GPaが得られ,歪量とともに破断伸びが増加するという特異な現象が認められた。さらに疲労の試験ではHPT加工によって低サイクル疲労特性は大きく向上するが,高サイクル側では加工による向上は小さくなることが判明した。以上のように当初の研究計画を達成することができた。本研究では当初予想していなかった現象をも見いだした。HPT加工の特徴は歪勾配を伴う加工であると同時に,大きな静水圧下の加工である。静水圧の影響として,純Tiを圧力5GPaで加工すると高圧下で安定なω相に変態し,圧力を除去した後も,ω相は室温で安定に存在することを見いだした。Ω相は高強度でもろく,加熱中に200℃付近で安定なα相に変態する事を見いだした。このように高圧下で安定な相が変形によって常圧下でも準安定に存在し,Tiの高強度化に利用できる事が判明した。
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