材料中の水素-転位ダイナミックスを検出するにあたり、BCC系金属として工業用純鉄、FCC系金属としてInconel625を用いて、室温における転位による水素の輸送現象解明を目的とした。引張試験中に試験片から放出される水素を検出するために、低ひずみ速度引張試験機(SSRT)に真空チャンバを取り付け、そこに質量分析器(QMS)を組み込み装置を試作した。試験片表面の吸着水起因の水素、および応力を負荷しなくても拡散する水素を除去することで、変形過程における水素放出挙動を解析した。その結果、純鉄およびInconel625ともに、弾性変形過程では水素の放出は認められず、一方、塑性変形開始とともに急激に水素放出が開始し、その後徐々に水素の放出も低下する。塑性変形初期の急激な水素放出は、刃状転位による水素の輸送に起因し、その後の水素放出の低下は、転位密度の増加とともに平均転位移動速度が低下し、さらに結晶粒界などに転位がpile-upすることに起因すると推察される。また、従来、刃状転位が水素を輸送すると報告されていたが、本研究では変形後期でも水素の放出が検出された。この結果から、変形後期ではらせん転位が主となるため、静水圧応力場を持たないらせん転位も水素と相互作用し、転位の輸送に大きく貢献していることが判明した。さらに、ひずみ速度依存性についても検討し、ひずみ速度を遅くするほど転位による水素の輸送量も増加する。しかし、水素の拡散速度より遅くすると、逆に、水素の輸送量は減少する。以上、変形過程における水素-転位ダイナミックスの検出に成功した。
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