研究概要 |
ダイヤモンドの表面構造(終端元素やダングリングボンド)が物性に大きな影響を及ぼすことが明らかになりつつある。さらに、これらの表面構造の熱力学的安定性は、未だ結論の出ていないダイヤモンドの核形成や成長の物理モデルを構築する上で欠かすことのできない情報を与える。本課題では走査プローブ(SPM)法やオージェ電子分光(AES)法を用いることで、表面終端構造の安定性やその制御法を明らかにする実験及び理論的研究を行った。昨年度までの雰囲気制御型SPM法による実験においてC-H結合の解離に必要な電子線衝撃が見積もられた、そのエネルギーは10eV以上フラックスは1nA/φ1μm≒1kA/m^2程度以上と推測されていた。これに基づき、超高真空中で15kV,1nA/φ10nmの電子線照射環境におけるAES法により、マイクロ波プラズマCVD法で作製した多結晶ダイヤモンド薄膜の粒表面、粒界部のオージェ電子スペクトルの測定を行った。これらの実験により、30分以上の電子線照射においても、250eV付近の炭素原子ピークは安定に確認可能であり、高エネルギー電子線照射による化学結合状態の変化は生じないことが明らかとなった。電子線照射位置を粒界部へと変化させた場合においては、炭素原子ピークは1.5eV程度低エネルギー側にシフトしており、粒界部のみ水素終端割合が高い(水素終端によるエネルギー安定度が高い)ことが示唆された。これらの結果はエネルギー的に不安定な面や稜ほど、水素終端による安定化度が高いことを予想させた。他方、薄膜形成の初期段階の核形成や表面の水素終端化の生成に重要であると考えられる水素イオンの表面への照射環境の"その場"計測実験およびシミュレーションを行った。マイクロ波プラズマCVDでの基板への負電圧印加環境においては、雰囲気中の原子状水素及び水素分子との衝突により、表面へのエネルギー輸送は限られ、入力電力のほとんどが中性原子の熱運動に変化することが明らかとなった。以上の結果から、成長中の水素終端化は表面への高エネルギーイオンの照射が無い、熱平衡に近い環境においても生じうることが示された。
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