研究概要 |
地球上唯一の循環型炭素資源である植物系バイオマスから様々な化学製品を合成する「バイオマス・リファイナリー」こそが,持続可能な社会構築を目指す次世代の産業基盤の一つとなる.特に,次世代に繋がるバイオマス・リファイナリーにおいては地球環境に負荷のないグリーンプロセスでなければ意味がないことは自明であり,バイオマス変換反応の媒体は水やCO2など地球環境に適合した溶媒が望ましい.こうした背景のもと申請者らは,「高温高圧水バイオマス・リファイナリー」の開発に向け,これまで,木質バイオマスから高純度なセルロースが回収できること,および単糖類を高収率に生成するための必要条件がほぼ決定できたこと,など様々な研究を行ってきた.それに対し,グルコースまたはフルクトースから多くの有用物質(乳酸やHMFなどポリマー原料もしくはポリマー原料前駆体など)がワンポットで得られることを明らかにしたものの,従来の条件(200〜400℃,1〜40MPa)では高い選択率で得られる生成物は極少数であり,選択率を上げるためには更なる広範囲な圧力条件での検討が望まれるという結論に至った.昨年度は,圧力の反応制御性に関する知見を得るため(1)ポンプの開発(2)糖の高温高圧水中反応における超高圧の影響の解明(3)水熱ダイアモンドアンビルセル(HDAC)による糖の超高圧での反応挙動のin-situ測定による超高圧の影響の理解を行ってきた.本年度は装置の改良により超高圧高温水における糖の反応の詳細な検討が可能となり,圧力限界(40MPa)を超えた高圧条件(100MPa)でD-グルコース,D-フルクトースおよびその中間生成物であるグリセルアルデヒドの高速変換(〈1s)を無触媒で行い,反応経路の解明,反応機構の提案,反応速度的評価を行った.圧力の増加に伴い,脱水生成物(5-ヒドロキシフルフラール,フルフラール),有機酸(乳酸)の収率が増加,レトロアルドール生成物(グリセルアルデヒド,ジヒドロキシアセトン)は減少することを明らかにした.また,温度一定において水密度増加により,脱水,ベンジル酸転移,異性化反応が促進されることを明らかとした.新たに水分子が直接活性錯体に関与する反応機構を提案し,水密度増加により反応が促進される現象を考察した.
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