研究課題
ナイロンオリゴマー分解酵系(NylABC)の触媒機構を実験・理論両面から解明すると共に、得られた知見を基盤として、バイオプロセス構築へ有用な酵素の構築を行った。まず、NylBと88%の相同性を有するカルボン酸エステル分解酵素(NylB')から、6-アミノヘキサン酸二量体加水分解活性の高機能化を行った。得られた変異酵素と基質との複合体の構造解析から、ナイロン基質のアミノ末端側を安定化するアミノ酸置換〔181位のグリシンからアスパラギン酸への置換(Gly181→Asp)、および266位のヒスチジンからアスパラギンへの置換(His266→Asn)〕と、カルボキシル末端側を安定化するアミノ酸置換〔370位のアスパラギン酸からチロシンへの置換(Asp370→Tyr)〕の2つの高機能化経路が存在することを明らかにした。さらに、これらの置換を租み合わせ、加水分解機能(K_<cat>/k_m)が、自然界から分離された酵素(NylB)より、約5倍上昇した変異酵素の構築に成功した。一方、90%tert-ブタノール/10%水の反応系では、加水分解の逆反応により効率的にアミド合成反応が進行するが、合成/分解活性比(初速度の比)、及び最終生成物濃度が上記の位置におけるアミノ酸置換で大きく変動するという興味深い現象を見いだした。この分子機構を構造レベルで明らかにするため、各種変異酵素とモノマー基質との複合体の立体構造解析を行った。その結果、アミド合成の高機能化には、基質により誘導されるオープン型からクローズ型への酵素の構造変化、特に触媒中心クレフト周辺の疎水環境場(水分子数・触媒部位の外部環境への遮蔽)の形成が重要であることが示された。また、食品添加物として有用なε-L-リシン誘導体(6-アミノヘキサン酸二量体アナログ)に対する活性が上昇した変異酵素の取得にも成功した。さらに、分子動力学法を用いたコンピュータシミュレーションから、D-リシンのαアミノ基による立体障害がDL識別の主要因であることを提案した。一方、物質生産過程では酵素の安定性が問題となるため、親型NylCの立体構造解析に基づき、タンパク質安定化に有望なアミノ酸置換を推定し、合成オリゴヌクレオチドを用いた部位特異的変異処理により、変異酵素を構築した。その中で、Asp36→Ala、Asp122→Gly、His130→Tyr、Glu263→Glnの4重変異を導入した酵素では、耐熱性が大幅に(熱変性曲線のTm値として36℃)上昇していることが分かった。変異酵素の構造解析から、熱安定性の上昇は、アミノ末端側から36番目、122番目付近の酸性アミノ酸残基同士の静電的反発の解消、130番目付近のアミノ酸残基によるループの安定化、263番目付近のループ領域の安定化に起因すると推定した。本研究の結果、産業応用への応用展開が期待できる酵素群を構築することができた。
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