不眠や憂鬱感、頭痛を和らげる効果を有する抗精神病薬として期待されている5-Hydnoxy-L-tryptophan(5-HTP)の効率的な合成法の確立を目的に、L-トリプトファンを直接水酸化する酵素の探索と開発研究に着手した。昨年度、呈色分析法による一次スクリーニングと精密質量分析によって、Chromobacterium violaceum由来L-フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)にわずかながらL-トリプトファン5-水酸化活性のあることを明らかにした。今年度、当該L-トリプトファン水酸化活性を高めることを目的として、進化分子工学的手法によるランダム変異導入とタンパク質工学手法による部位特異的変異導入を検討した。高等生物由来の芳香族アミノ酸水酸化酵素とのアミノ酸配列比較や立体構造比較に基づいてPAHのモデリング検討を行った結果、PAHの101位と180位のアミノ酸残基はL-トリプトファンとの相互作用や親和性に関わる重要な部位であると推測した。当該アミノ酸残基への部位特異的変異導入により取得した改変型PAH:L101Y-W180Fでは、野生型PAHと比較してL-トリプトファン5-水酸化活性は5.2倍に向上した。一方、L-フェニルアラニンに対する相対活性は70%ほど低下しており、当該アミノ酸残基は基質認識に関わる部位であることが強く示唆された。5-ヒドロキシ-L-トリプトファン合成収率は、野生型PAHを用いた従来法では0.1%(モル転換収率)であったのに対し、改変型PAHを用いて反応条件を最適化することで16%にまで大幅に向上した。また、ゲノム情報とバイオインフォマティクスを活用して、多様なアミノ酸水酸化酵素の候補となる遺伝子の活性発現ライブラリーを構築した。候補タンパク質の機能と基質特異性を評価したところ、L-リジン、L-プロリンに対する水酸化活性を新たに検出した。
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